2014年9月30日火曜日

MORE PROJECT CHART [2] 2014 -SUMMER- "HIMAWARI CHART"


MORE PROJECT CHART [2] 2014 -SUMMER-
"HIMAWARI CHART"

select and text by
DAISUKE MATSUMOTO (MORE PROJECT)


(record sleeve)
・artist
・disc title (format)
・"recommendation track"
・comment


・Roy Ayers
・Everybody Loves Sunshine (LP)
・自身の音楽遍歴において、高校生~20代前半の頃に入手した音源のほとんどのフォーマットは、CDなんです。というのも、DJを指向していたわけではなかったし、とにかく、手に入りやすいものを獲得するという、それだけの行動の繰り返しだったから。本作もそのひとつで、VINYLを購入したのはこの夏のこと。それを契機に、じっくりと聴き返してみると…そのまま、今夏の定番となりました。DJはもちろん、リスニング、BGMなど、あらゆる場面にフィットしていくクオリティの高さを感じながら、このことが“名盤だ”と各所で言われる理由なのだろなと思ったのでした。


・Brilliant Jazz Machine
・Brilliant Jazz Machine (CD album)
・"Black Out"
・このチャートでピックアップしている作品のなかで、唯一のCD作品。この2年くらいの期間のなかで、個人的に“DJでプレイするフォーマットは、限りなくVINYLに限定する”とのルールを課しています。理由はたくさん存在するのですが…そのメディアを使うスタイル自体がDJとしての選曲作業の起源=元祖で、伝統であり、継承していくべき形態なので…少しでもこだわりたいなと。けれど、この、2014年7月にリリースされた本作は、どうしても応援したいアーティストの音源なので、獲得し、プレイしています。快美な旋律とリズムが全体を覆っていますが、「Black Out」はフロアライクな趣向で、クラブ寄りのリスナーもとっつきやすいと思います。奏でているバンド・BRILLIANT JAZZ MACHINEは、僕のイベント「クラブ・ジャズ喫茶[モア]」でゲスト演奏してくれる予定です。日程:2014年10年19日(日)、会場:digmeout ART&DINERさん、時間:19:00~です。ぜひぜひ、お越しくださいませ。(詳細→「クラブ・ジャズ喫茶[モア]-4th Anniversary Special-」


・Prefuse73
・Vocal Studies + Uprock Narratives (2LP)
・この盤も、この夏に買い直し=聴き直した作品。ある日、ふらっと立ち寄った中古レコード屋さんで目に飛び込んできました。ジャケではなく、まず、“500円”という値段が(笑)。そして、棚に深く沈むスリーヴを持ち上げてみると、本作だということが判明し、購入に至ったというわけです。リリース当初(2001年)は、すでにレコードを聴く環境は整っていましたが、ラップトップ・スタイルのDJを展開せんとしていたため、デジタル・オンリーでの購入でした。アナログを探索するも、なかなか見つからないなか、とんでもない安価で発見・即決し、意気揚々と自転車をこぐ帰路で、ふと、レコードが入ったビニル袋がかかっているであろうハンドルに目をやると…ショッピング・バッグが見当たりません。“!?”。慌てて、走ってきた道を戻ると、ある交差点の真ん中に落ちているのを発見しました。しかし、なかなか拾得しに行くことができません。中央大通という、大阪の大動脈に絡む横断歩道なので、なかなか信号がかわらないのです。と、待っているうちに…大型トラックと自転車(ジャケットには自転車がプリントされています!笑)に踏んづけられてしまいました…。ということで、この作品は、オリジナルにしてサード・プレスなのです(笑)(目撃した場面以外にも踏まれているかもしれませんが…)。


・V.A.
・Contemporary Theories EP (12inch)
・Parker Madicine "Life On Mars"
 Jazz Machine feat. Veez-O "Astrocaro"
 Turbojazz feat. Kae, Erik Rico "Gimme What You Got"
・不定期開催のイベント「CROSS O BAR」の相方であり、身近な人物でもっとも尊敬する先輩の推薦、というよりは警告“これは試聴だけでもしておいたほうがいい”によって、チェックした作品。最近の、僕のユルり志向にぴったりな、穏やかなテンションで繰り出されるハウス・ビートは、夏の暑さを和らげてくれました。Erik Ricoがフィーチャーされた、R&B × JAZZ × HIP HOPなトラックへの、アブストラクトなボーカリゼーションは、納涼トラックとして最も活躍してくれたと思います。


・Toco
・Memoria (LP)
・ホーム・リスニングでは、ラウンジーなジャズやラテン、ブラジリアンをよくピックアップします。このアルバムは、そんなベクトルにおいて、よく聴きました。なかでも、レコメンドとして選出した「Rainh」はお気に入りで、現場でも頻繁にプレイ。キュートな歌声がメロディアスな主旋律を歌いますが、ポップすぎないアレンジメントによって、オーバー/アンダーグランドの両ファンに受け入れられる気がします。


・Yasiin Bey vs Marvin gaye (Amerigo Gazaway)
・"Ms. Fat Booty"
 "The Panties feat. Teddy Pendergrass"
 "Workin' It Out"
 "Peculiar Mathematics"
 "Time (To Get It Together)"
 "Inner City Breathin' feat. Tammi Terrell"
・この作品は…僕にとって、今年の夏の、いや、2014年の、いやいや、音楽人生における、大きなインパクトの1つになるでしょう。それほど、感動させられた盤なのです。大まかに解説しますと…Amergio Gazawayというプロデューサー/クリエイターによる、HIP HOPアーティスト・Mos Def (Yasiin Bey)とMarvin Gayeのマッシュ・アップ作品です。ご存知のかたもいらっしゃるかも知れないのですが、僕は、溺れ続けて17年目を迎えるMarvin狂で、彼のオリジナル作品はもちろん、彼のカバー作品やエディットについても、タイミングを設けてチェックしてきました。そのなかで、好感を抱く作品、リスペクトを感じる音源は散見されましたが…僕の基準=もし、Marvin Gayeが存命で、彼がその音を耳にしたとき、認めざるを得ないであろう音律に接することは皆無でした。そんな十数年を過ごしてきたからでしょうか、DJとしてはあるまじきスタンスなのですが、この作品のリリース情報を得たとき、たしかに、そのアートワークからパワーが伝わってはきましたが…試聴することなく過小評価していた=マインドを閉じてしまっていたのです。しばらくして、前出の先輩から確認が入りました。“アレ、聴いた?”と。作品が獲得できるかどうか、ということにたいするものではなく、先輩への返答に窮することへの焦りから、すぐさまチェックしました。そして、1曲目のリスニングと同時に…購入したのでした。それほど、Marvin狂の僕の直観を刺激するクリエイティヴィティだったのです。ちなみに…このあと登場する、本作の続編に収録されている曲が、AppleのCM(US)で起用されたとのこと(本稿アップ時には、日本でも放映されているようです)。Marvin Gayeの歌唱が、再び広く知られるキッカケが生まれたこと、そしてそれが、アンダーグラウンドなシーンか発せられたことに、大きな希望と価値を感じる夏の日々でした…。


・Budgie
・The Budgie EP (12inch)
・HIP HOPマナーが底流しているものの、音色に存するジャズ~フュージョン感覚、特に旧譜のそれに見られる=聴かれるサステインのユルさや粗さは、幅広い音楽ファンに訴求するでしょう。実際、僕のプレイにおいても、アーバン&メロウをコンセプトに据えている"NAGAMORE"、ソウルフル~ファンキー路線の"MOSANORE"、さらにスタイルとしてのクラブ・ジャズを打ち出している“クラブ・ジャズ喫茶[モア]”と、あらゆる場面でプレイする機会がありました。個人的には、本チャートにて後ほどピックアップされるMarvin Gaye「I Want You」との親和性の高さ・気持ちよさが印象に残っています。


・Roy Ayers
・Drive (LP)
 "Everybody"
 "D.C. City"
 "Chicago"
・本チャートで初出の「Everybody  Loves Sunshine」と同時期に購入した、同じくRoyの作品。かなり前に、「Lots Of Love」というLPを探索していたことがあったのですが、なかなか発見することができず、目にすることがあったとしても高価であったため、なかなか入手する機会に恵まれてこなかったのです。その頃に、リイシュー=本作が存在することを知り、並行してディグる日々が続いていたのでした。そして、手に入った今夏、そのままヘビープレイ盤となったのです。"And Then We Were One"は、8月に開催したイベント“NAGAMORE”で配布のノベルティCDに収録した、納涼チューンとしては白眉の一曲。


・Yasiin Bey vs Marvin gaye (Amerigo Gazaway)
・"Travellin' Man Pt. II (Distant Lovers Mix)"
 "Sex, Love & Money"
 "This Means You feat. Talib Kweli"
 "Modern Marvel Pt.I"
 "Climb (Interlude)"
 "Modern Marvel Pt.II"
 "Umi Says"
 "End Credits feat. Andy Flory"
 "Ms Fat Booty feat. Ghostface Killah - part 2"
前出のYasiin Bey vs Marvin Gaye (Amerigo Gazaway) "Yasiin Bey"では、全体的な感想を述べましたので…ここでは、""Yasiin Gaye""Yasiin Gaye: The Return"両作にてレコメンドとして選出している楽曲について、書きたいと思います。
"Ms. Fat Booty"は、"You're A Wonderful One""Can I Get A Witness"を下地に制作されたテイク。キーの調節がほぼ不要であると目論んだであろう"Let's Get It On"のシャウトやフレーズを採用しています。 ここでは異性=女性への愛をリンクとしたリリックを盛り込んだボーカルをフィーチャーしていますが、続く"The Panties"では、人間への愛=博愛からセクシャルなラヴなど様々なアングルの愛を同居させて、マーヴィンのセンシティブな精神性をひとつのトラックに収斂するという技を披露。バッキング・トラックは、打って変わってスローに変換。"Sexual Healing"を起用しています。同曲のオリジナルのボーカルを取り入れつつ、こんどは"What's Going On"のコードワークとコーラスを大胆に使用して煽情すると、その思慮深い詩の世界に聴き入ってしまい…いつしか、目を閉じていました。ミックス風に続く"Workin' It Out"では、再びソウルフルな側面を照射。そう、ここまで挙げた3曲=Side Bは、両者(Yasiin Bey + Marvin Gaye)の、よりソウルなキャラクターにフォーカスしているのです。しかし、一辺倒な作風で収まることはなく、抑揚/緩急を味付ける調理はどこを切り取っても一級。この曲では、ギターのサンプリングによるタイトな仕上げがまったく齟齬なくフィットしています。
"Pecuilar Mathematics"は、サビとして構築された"I'm Gonna Give You Respect"の展開まで、およそ3分を要するロング・トラック。ファンである僕としてはほどよい尺、いや、焦らしとしては足りないくらいなのですが、一般的には間延びしがちな時間となるでしょう。ですが、"Ain't That Peculiar"からピックアップしたリリックのリフレインと、エフェクティブなストリングスのサンプリング、多様な声ネタの混交によって、時間経過に比例してワクワク感が増大していきます。さらに、サビで前半のフレーズを同期させられると、こんどは再びフリのループに浸りたくなる気分にさせられ…ちょうどその頃に、その部分=フリへと絶妙にリバースするという、ワンダフルな作りとなっています。
タイトルにある"Time To Get It Together"が、そのままモチーフになっている"Time (To Get It Together)"は、2007年にリリースされたCD「Here, My Dear - Expanded Edition」で、初めて世に出たお蔵入りトラック"Time To Get It Together (Alternate Extended Mix)"が採用されています。Yasiin Beyのボーカリゼーションは、あいかわらず抜群に馴染んでいるのですが、「time」のフレーズが、まさに“時宜”を得たハマり具合で、幾重にも楽しませてくれるでしょう。
LP"Let's Get It On"制作時の未発表テイクで構成された"Let's Get It On - Deluxe Edition"に収録の"Mandota (Instrumental)"を原型とした、ジャジーなインストでじわじわスタートする"Inner City Breathin'"。コーラスワークの小出しによってリスナーを煽ると…初期の名デュエットのひとつ"If This World Were Mine"へと展開します。これらの楽曲の組み合わせが醸すジャズ×ソウルな風合いは、マーヴィンが存命ならきっと気に入り、ライブで再現するのでは、との想像をファンに抱かずAmerigo Gazawayは、やはり只者ではないですね…。

"Travelin' Man Pt. II"のイントロは、ディープなMarvinファンならずとも、ソウル・ミュージックの愛好家ならどこかで耳にしたことがあるであろう、"Distant Lover"のライブ・バージョン。ですが、同時に、明らかにピッチが違うことに気付くはず。現代の技術をもってすれば、この程度のスピートなら、CDJによっていとも簡単に調整が可能だろうに…なぜそのようなアプロートを施さなかったのだろうか、そんな疑問と同時に、この違和感はきっと何かの前フリだと思った次の瞬間、答えが出たのです。Marvin GayeとDiana Ross名義による"You Are Everything"に移行したかったのだ、と。つまり、同曲の風味とDianaのコーラスを活かした作品に仕上げたかったのだ、と。大胆な調節(ピッチ変換)を、大胆に、いや、半ば強引につなぎ合わせているのですが、ビッグチューンを取り上げることで、リスナーを興奮へと導いていきます。
"Baby Don't Cha Worry"を用いた"Sex, Love & Money"、"You"と"Too Busy Thinking About My Baby"に由来する素材を多用した"This Means You"、"One For My Baby (And One More For The Road)"を土台に"I Heard It Through The Grapevine"を歌わせる"Modern Marvel Pt.I"は、まさに、Amerigo Gazawayが展開するマッシュ・アップ・シリーズ“Soul Mate”とのプロジェクト名をもっとも体現するトラックでしょう。
尺としては小品ですが、もっともジャジーでニューソウルなテイストを湛えている大作が"Climb (Interlude)"。"Falling Love Again  (Alternate Version)"と、"I Want You"のコーラス&ホーンセクションの合わせ技は、彼のことを知ると、恋愛における悲哀を凝縮したトラックに仕上げられたものだとうことを知るでしょう…。
“Sky High Productions”で著名なプロデューサー・Mizell BrotherslとMarvinに深い関わりが存在し、両者での楽曲制作も進み、リリースの予定があったことは、あまり知られていないかもしれないですね。Mizell Bro. とDonald Byrdによるタッグで生み出された初のアルバムとして有名な"Black Byrd"収録"Where Are We Going"は、実は本作収録の"Modern Marvel"で使用されているバージョンへのアプローチのほうが先なのです。コード感が似通っている"What's Going On"を被せるのは想定内ですが、間の取り方によって注意深いリスニングをもたらすセンスには、脱帽せざるを得ないでしょう。
"Since I Had You"、 "Is That Enough"、"Love Is For Learning"といった、華やかな作品を組み合わせたバッキングが映える"Umi Says"は、ハイライトにふさわしい豪華な演出となっています。
Marvin Gayeが音楽を担当した映画「Trouble Man」に登場するMr. Tのセリフ「My name is T, baby.」でスタートする"End Credits feat. Andy Flory"は、同映画のサントラ"Don't Mess With Mister "T""をサウンドの基盤に起用。Mr. Tに呼応する女性の声「I know. you are.」をフリとして、中盤からはMarvin Gaye & Tammi Terrellによるデュエット"Ain't Nothing Like The Real Thing"がフィーチャーされています。この曲におけるの2作品のミックスには、前出の"Inner City Breathin'"と同じく、Marvinを感化させ、ステージングで取り上げさせるパワーとセンスの爆発を感じずにはいられません。
"Ms Fat Booty"は、本LPが、アナログでの発表前にフリーダウンロードにてリリースされたときには存在しなかった作品で、LPがリリースされるも、ジャケットへの表記がない、言わば隠しトラック的な作品なのです。そんな性質を持つ本作のバッキング・トラックに打ってつけだ、と唸らされた元ネタは…Marvinのドキュメンタリー番組「The Final Year(正式タイトルは不明)」中の演奏シーンのみで聴取が可能な、彼が自ら弾くピアノのフレーズ。容易に辿り着けない=レコードやCDでは存在しない=まるで隠された音律を採用するという心憎い演出には、あらためて感服させられました。
アルバムの最後の最後まで、エンターテインメントとオリジナリティへのこだわりを貫いた、計4枚8面32曲を制作したAmerigo Gazawayに敬意を表します。


・Teebs
・Estara (2LP)
・夏に開催した、すべての主催イベントのオープニングで抜擢した、アンビエント/アブストラクト・トラック。多用した"Shoouss Lullaby"は、ビートレスからそのまま静謐なチューンへの移行、ドラムインした後にHIP HOPやブレイクビーツへの展開、ローズを主体とした楽曲へのミックス、ギターを共通項に持つ作品への飛躍…などなど、多様なサウンドへの変換が可能なのです。作者・Teebsは、自身でアートワークを手がけたり、個展を開くなど、音楽以外の才覚もあふれる人物。本作のジャケットも、彼自身によるもの。


・Cortex
・I Heard A Sigh (LP)
・このLPに接することで、数年前の、Roy Ayersの未発表作のリリース・ラッシュのときの驚きを思い出しました。なぜ、こんな名演たちが日の目を浴びなかったのか…かつ、旧譜であるのにもかかわらず、新鮮に響く音律の数々は一体…。そして、願わくばRoyのときと同じく、名プロデューサーたちによるリミックス/エディットが誕生せんことを望んでいます…。Cortexのメンバーの出自については未知ですが、おそらく、彼らに内包されたロック×フュージョンな感覚が、3コードをただのブルージーな音色にしなかったり、洗練され過ぎないアーバン・テイストを生み出したり、テクニックに走り過ぎないインストを創出しているのだろう、そんな気がします。


・Darkest Pumpkin
・Let It Be / That Feeling (12inch)
・"Let It Be"
 "That Feeling"
・個人的に、ビートダウンについては、特にここ最近はヒップホップ/ハウスが基底となったトラックが多く聴かれるなかで、ジャズ/フュージョン界から発せられたビートダウンへのアプローチが登場し、さらに、そこにはシーンの諸作を凌駕するオリジナリティが包含されていることに、大きな喜びと希望を抱きました。音数やアンサンブルはシンプルなのですが、テクノ/アーバン/ディスコのいずれにも偏らない、けれど、いずれの特色をも盛り込みながら潰し合うことなく、無二の音色を構築しているのです。もしかしたら、コンプによる効果の妙かもしれません。とにかく、"Let It Be"は、心の底から名作だと感じます。


・Taylor Mcferin
・Early Riser (LP)
 "Florasia"
 "Stepps"
・メロディー・ラインの展開を中心に、エフェクトの位置やタイミング、リリックにおける字余り的な効果の妙…などの裏切りエッセンスが満載なので、瞬間的な楽しみを与えてくれるのはもちろんなのですが…それぞれの主張が強いのにぶつからない…つまり絵の具で喩えると、ビビッドな色ばかりをたくさん混同しているのに、鮮やかな発色を保っているところが固有の魅力であり、不思議な点なのです。ただ単に混色するだけだと醜い色になるのがオチですが、全体的にポップな音色が完成するのはなぜなのでしょう…。と、ここで、父親がTaylor Macferrinだということを思い出しました。きっと、彼のDNAが作用した結果なのでしょう。


・Dopegems
・Necksnappin' (LP)
・"Solstice"
・メロディアスにしてストイックな作風、寂寥と悦楽を往来させる演奏、伝統と異端なスピリットの交配…と、反するベクトルが同居する音像は、どんな心境にもフィットします。先行リリースされていた7inchに収録の"Journey To The Shore""Quasar"を含むB面の世界観が、特に幅広いシチュエーションに寄り添うでしょう。音色としては、最初に飛び込んでくるのはヴィブラフォンだと思われますが、再生を繰り返すうちに、きっと多彩なドラミングに魅せられることでしょう。クラブ・ミュージック、就中、スピリチュアル・ジャズへの傾倒を見せる音源やヒップホップ・マナーを内包するサウンドでは、とかく単調なリズムが強調されがちですが(それが魅力のひとつなのですが)、それは、それだけオカズ多き打撃のドラムを盛り込むことが困難な証左でありましょう。しかし、そんなハードルを悠々と越えた作品が、ここにはにあります。


・Umod
・Enter The Umod (2LP)
・"Love Devine" (*link to iTunes Store.)
・クラブおけるジャズ・シーンは、自身が愛好しているからでしょうか、多様な文脈が存在るすように感じます。大別すれば、旧譜指向/新譜指向や、生音主体/打ち込み主体という分類が可能でしょう。さらに、プレイするDJの趣味や地域、その作品に底流するジャンルの性質によって、多彩なアングルに分けることが可能でしょう。僕は、それらを往来するプレイを展開できればと思っているのですが、このことについては別の機会に述べることにして…本作は、2004年にリリースされた、フュージョン路線に位置する新譜/打ち込みサウンドなのですが、この質感が、現在のビートダウン・サウンドと好相性なんです。このことは、作者Umod(domu名義での活躍で有名なDJ/クリエイター/プロデューサー)の先見の明と捉えることもできるでしょうし、ビートダウンの下地として大きく寄与している音楽性・HIP HOPの必然的な発展形が、フュージョンの進化(=本作)と交差したタイミングが、たまたま今だった、との見方もできると思うんです。ともあれ、この、音楽×時間が織りなす、全体的なクロスオーバーが生むワクワク感こそが、音楽鑑賞の大きな魅力のひとつなのではないでしょうか。


・Elder Statesman
・Montreux Sunrise (7inch)
・美麗なコードワークを、華麗なプレイによって仕上げられた、流麗なるジャズ・チューンなのですが…いい意味でのクセ、たとえば不協和音のチョイスとその配置や、一切の攻めを排したワウ・ギターなんかが、最終的なジャンルにスピリチュアル・ジャズを盛り込ませるに至っているのが"Montreux Sunrise"であり、パーカッションの選択と、やはりストイックなミキシングのギターによって、結果的にラテンな風合いを醸しているのが"Trans-Alpine Express"なのです。


・Marvin Gaye
・I Want You (LP)
 "I Wanna Be Where You Are"
・前出2作「Yasiin Gaye」「Yasiin Gaye: The Return」によって、再々々…何度目かわからないくらいの回数を迎えた本作のリヴァイバル。なので、幾度もリスニングを重ねてきたのですが…初めて触れたとき以来の感動が押し寄せてきました。それは、やはり、ひさびさにアナログ・レコードで鑑賞したからでしょう。初体験は、10代の後半でした。そのとき手にしていたレコードは、誰かに貸したあと、行方不明になってしまい…買い直そうとしたものの、その後リリースされた、本作のデラックス・エディション(CD。アルバムと同内容の楽曲に加えて、未発表音源も収録)を入手することで、いつでも触れる環境が整ってからは、ずっとレコード音源から遠ざかっていたのです。が、あるレコード店で、たまたまSOULコーナーのMの棚(アーティストの頭文字がMで始まるレコードが集められた場所)から掘り出したことで、再び深いリスニングに恵まれたのでした。


・Sauce81
・It's About Time (12inch)
・"It's About Time" (*0:00〜)
 "Put It All On" (*3:12〜)
 "The Message" (*10:45)
・僕には、ギターを弾き、曲を作っていたという過去があることから(実は、密かに現在も継続しており、いつか発表できればと思っていたりします…)、“バンドを組んでみたいな~”“もしバンドを組んだら、こんな音を奏でたいな~”なんてことを想像するひとときがあったりするのです。その内容は、DJとしてディグ/プレイするなかで出合う、あらゆる音源を通じて湧き出でてくる、理想の音楽のひとつのカタチなのですが…本12inchに収録されているすべての作品が、そんな音だったので、驚嘆しました。ということで、全曲を全力でレコメンデーションします。


・Mr President
・Hips Shaking (LP)
 "South Street Walk" (*link to label's HP.)
・旧譜のジャズ・ファンクなエッセンスを多分に含み、同時に打ち込み=プログラミングによるタイトなリズム感を融和させたトラックに、ソウルフルな歌唱が映える、ポジティヴなバイブスが満載な一枚。ですが、僕はインスト曲"Hips (Reprise)"を多用しました。現場の選曲、特にピークタイムでは、どうしても個性・主張が激しいトラックが連続しがちですが、そんなときに、急激なテンションの下降を伴うことなく、スムーズな音色の移行にブリッジとして活躍してくれた同作は、個人的にミスター・ブリッジと呼んでいます。最終曲"South Street Walk"は、エンディングにふさわしい、ユルいテンポのトラックですが、スピリチュアル色さえ感じさせる、Mr Presidentの多芸ぶりを凝縮した一曲でもありましょう。


・Takuya Kuroda
・Rising Son (2LP)
 "Sometime, Somewhere, Somehow" (*link to iTunes Store.)
・この作品は、CDアルバムとして本年(=2014年)2月にリリースされており、それを購入していた僕は、すでに聴き込んでいたのですが…発信レーベル・BLUE NOTEが、発足75周年記念としてVINYLでもドロップ。現場のプレイでフィーチャーしたかったので、即決でした。実際、現場にはいつも携行していましたし、“夏の夜の散歩”をコンセプトに編んだコンピレーションCD「SUMMER NIGHT」シリーズにも収録。僕にとっては、冬ではなく、夏の1枚になりました。


・Stevie Wonder
・Songs In The Key Of Life (2LP)
・このLPは、収録曲すべてがオールタイム・フェイバリットなのですが…だからこそ、現場でのプレイで、楽曲単位で組み込むことが困難だったりするんです。が、今夏は、タイトルに季節を含む"Summer Soft"をストレートに選抜。イベントでは終盤のクラシックス・タイムに、普段は仕事の帰り道によく聴きました。


・The MG's
・The MG's (LP)
・"Sugarcane"
・約7年前に手がけた、入浴を彩るコンピレーションCD「BATH TIME」を、あるキッカケで聴き返すことでリヴァイバルした楽曲。ソウル~ジャム色が強く、かつ裏打ちなリズムは、この夏のプレイでのイントロダクションの定番であった、レゲエ・セットからの展開に頻出しました。


・Marcos Valle
・Vontade De Rever Voce (LP)
・高校生の頃に辿った、ロック→ソウル・ミュージックの流れの中で、双方の汽水域のような地帯として心地よく浸っていたサウンドのひとつが、Marcos Valleの作品。でも、そのときはCDで楽しんでいました。と、ここまで書いたところで、このあと述べることが、このチャートのいくつかと重複する気がしてきました。それは…以前、デジタル音源で鑑賞していたけれど、最近、アナログで再購入~リヴァイバル~季節・夏にフィット~ヘヴィープレイというプロセスを経てチャート・インしているという点です。ディープなリスニングを経た楽曲が、未だに興奮・高揚とともに聴くことができる、しかも10年以上のブランクを軽々と乗り越えてーー名曲は飽きることがない/飽きさせないとの、自身の定義をさらに深めてくれたLPですね。


・Yosuke Tominaga
・The Champ (2LP)
・"Drag-On Pt. 3"
 "Magnetic Pt. 3"
 "Ramp
・料理、なかでもオーガニックを売りにしているカフェに喩えると… 茹でた野菜に塩をふりかけただけのメニューとでも言えましょうか…至極シンプルな楽器構成なのです。しかし、オシャレを気取るカフェと異なるのは、強迫観念による思考停止を強いないところ。“これはこだわった野菜を使った、こだわったレシピによる料理なのだから、美味しいのだ”との思い込みを抱かせないのです。つまり、ただのシンプル&薄味ではなく、言わば切り方やサイズ、盛り付けが新しいので、素直に感嘆させられるのです。"Drag-On Pt. 3"でのハーモニクスや"Magnetic Pt. 3"におけるタメは、何度リスニングを重ねようとも、ヤられてしまう要素。


・B&G Rhythm
・B&G Rhythm (LP)
 "Hibaros"
・レコードを掘っているとき…未知のアーティストであり、その名前、タイトルのインパクトが小さく、ジャケのパンチ力も弱い…とくれば、ほとんどの場合、スルーするでしょう。この盤は、まさにそんな条件に該当すると思いきや…ウェイン・ヘンダーソンによるプロデュースだというクレジット情報を得て、試聴することに。そして、"Hibaros"のイントロで財布の中身を確認、同作のメロからの展開のコードワークで、購入リストに追加…と、スピード購入しました。レコード屋さんの推し"Friends You And I"も、爽やかなギター・カッティングや透明感あふれるキーボードの音色が、涼しげなひとときをもたらしてくれるチューンで、これからの夏の定番曲になりそうです。


・Isaac Hayes
・Shaft (2LP)
・この夏は、シーンで交流のあるDJさんと、直接お話する機会がいくつかありました。ザックリと、ジャズやソウルをプレイするという点では同類であるものの、細かい音楽性はもちろん、プレイするフォーマットとそれに応じたプレイ・スタイル、さらには禁じ手の違いやヘッドフォンのこだわりまで、多種多様です。そんな違いを、実際に言葉を交わすことで、あらためて知ることになり、とっても刺激になりました。そして、そんななかで、あらためて、王道を堂々とプレイする、王道を盛り込みつつ、アンダーな世界観(選曲による新たな切り口)を築くという自身のスタイルを意識したのでした。その文脈で、この作品は、再び僕のプレイで脚光を浴びることになったのです。サウンド・トラックだけあって、さまざまな音像が収録されており、いろんな場面で活躍してくれます。


・Reginald Omas Mamode IV
・Do You EP (12inch)
・"Do You"
 "Use Me Up"
・作者に関する情報は、ほとんどないのですが…おそらく、1980年生まれの僕と、そんなに年齢は離れていないのではないか、同世代なのではないか、なんとなくそんな気がしています。というのも、トラックから察するに、その背景にあるであろうクロスオーバー感、さらにトラック自体が醸すクロスオーバーな質感は、ルーツ・ミュージック/新興サウンドを問わず、あらゆる音源をフラットに吸収・咀嚼するという姿勢を持つ人物=同世代に共通する感性から発せられたものだと考えられるからなのです。ただ、どこに重きが置かれるか=アウトプットの際にどんな出口を通過するかによって、傾倒するジャンルは異なってきます。ここでは、サンプリング・テイストをふんだんに取り入れたボーカル・パートと、スモーキー&ファットなビートが、僕の個人的なジャンル:B-Boy Houseに分類されるにふさわしいダイナミズムと繊細さが同居している側面と、合いの手としてのキーボードや、ブロークンビーツなプログラミングなどのジャズ~フュージョン性に富んだアレンジメントが強調されていますね。最終曲"Keep On Walking"は、Roy Ayersのカバー。Reginald Omas Mamode IVが、本作で自らボーカルをとっているとすると、同スタンスのアーティストへのオマージュからのチョイスともとれますが、果たしてどうでしょうか…。


・Amberflame
・Unique (12inch)
・"Ultra Violet" (*3:28〜)
・ビートダウンというジャンル/概念が浸透していく流れのなかで、ただテンポをユルめておけばよいといった、安直な発想から成るトラックが散見されます。そんな中にあって、珠と光るこの作品は…単なるスローな4つ打ちではないですし、 だからと言ってバンド・ライクな作風に傾倒するわけでもなく、プログラミングならではのタイトな打撃は保ちながらズラす、タメる、ヌくなどといった味のあるドラミングを構築。ベースや上モノも、ループと見せかけつつ、異なる要素を抜き差しています。極め付けは、ギターの存在。DJユースとなることを考慮して、次の曲へのブリッジにしようとしたのでしょうか、それとも別に存在するテイクとの掛け合わせによる偶然の産物なのでしょうか。いや、他に理由があるのか…不明ですが、個人的には、この、最終に登場するギターという名のスパイスはなかなか思いつかないし、けれど万人が気づくことはなさそうな、まさに隠し味的なアプローチがとっても好みです。


・Barry White feat. The Love Unlimited Orchestra
・Rhapsody In White (LP)
・分厚いストリングス、メロディアスなバッキングのホーン、ワウ・ギターによるアクセント、歌うベース、さらに幾つもの場面展開…と、濃厚なアレンジメントが施されているのに、総じてストイックに集約させるのがBarryの魅力。また、驚くほどにジャジーであり、意外なほどにソウル、加えてポップであるため、DJにおいては異なる音楽性をつなぐブリッジとして機能します。自宅での鑑賞は、まさにレコメンドとしてピックアップしている"Midnight And You"のタイトルに導かれるように…深夜帯=midnightが多かったのではないでしょうか。猛暑によって火照った身体をクールダウンするには、もってこいの一曲です。はたまた、あなた=youとの熱い時間の後にも、心地よいかも知れません…。